2011年9月購入。
マーク・ラーシーという名前のギターは、いつも私がベースを買うお店『ラフタイム』で実物を見るまでは知らなかった。
Mark Laceyという職人の履歴を少し調べてみた。
マーク・ラーシーのギター製作者としてのキャリアは
1974年 ロンドンでスタート。
1977年 ノルウェーでリペアマンとして活動。
1981年 ナッシュビルに引っ越し ヴィンテージ専門のリペアマンとなる。
この間に様々なヴィンテージ・ギターの名機のノウハウを取得。
1988年 ロサンジェルスに自分のショップを構え、カスタムギターの製作とギターリペアを行う。
1995年 単身ナッシュビルに戻り、年間15本のカスタムギターを作る体制を整える。
関わったアーティストにはポール・マッカートニー、スティング、アンディー・サマーズ、スティーヴィー・レイ・ヴォーン、等数々ビッグの名がある。
もはや手に入れることが非常に困難になってしまった、美しく希少な木材を、
年月をかけて寝かせてから使用。
ディアンジェリコ、ダキスト、ギブソンといった伝統的なギターの、古い時代の製作手法を貫き、
サイドは手曲げ、トップとバックのカーブは削り出し。
接着部分にも、やはり伝統的な接着剤ニカワを使う。
動物性の接着剤であるニカワは、乾燥に非常に時間が掛かる。
しかしこのニカワこそが、ヴィンテージ・ギターの音質に関わっているらしい。
伝統の響きを生み出すために時間と手間を惜しみなく注ぎ込んで、一本一本丁寧に製作。
その作品は正に芸術品である。
アメリカのヴィンテージギターコレクターとして有名なスコット・チアリー氏が、
1995年に急逝したギターの名工ジェームス・ダキスト氏の追悼のために1996年、ギブソン社などを含めた著名な22人の製作者に、
18インチボディーのアーチドトップギターをオーダー。
ダキストの名作【ブルーセンチュラ】にちなんで全てブルーでオーダーされた。
ダキスト自身の【ブルーセンチュラ】と共にクラシックギターショーに展示され、その後ワシントンのスミソニアン博物館に約1年に渡って展示された。
その22人の一人がマーク・ラーシーなのだ。
これがマーク・ラーシー作の【The Blue Virtuoso】
日本ではあまり知られてはいないが、マーク・ラーシー氏は世界的名工の一人なのである。
さて、私が手に入れたこのPremireは17インチモデル。
1997年に製作され『ラフタイム』に入荷。
シリアルナンバーは#0051。
ピックギターとして製作され、後に『ラフタイム』のオプション仕様として、
1950年代の製作のデアルモンド社製フローティング・ピックアップがマウントされている。

見事なフレーム |
見事な美しさは、ある種の威圧感を感じさせる。
しかも非常に高いギターであるため、なかなか売れずに店に置いてあった。
フルアコースティックという分野にあまり興味が無かった私は、
試奏しようとも思わなかった。
2009年10月18日(日)午後2時頃、
『ラフタイム』の店頭からこのギターが盗まれた。
店員とお客が店の奥で話し込んでいるちょっとした隙を狙っての犯行だったらしい。
当時、色々な店で楽器の盗難が多発していた。
「どこかの国のマフィアの組織的犯行ではないか…」
「もう既に売りさばかれたのではないか…」
色々な憶測が巡った。
私もブログで捜索願いを訴えたりした。
とはいえ、警察も言っていたそうだが、この手の盗難品はまず戻ってこない。
『ラフタイム』の店主の佐藤さんも諦めていた。
しかし何と、
2010年10月30日 ギターは奇跡的に見つかり、『ラフタイム』に戻った。
まだ若い楽器マニアの犯行だった。
犯人の家には、所狭しと盗んだ楽器が並んでいたそうである。
酷い人間がいるものだ。
苦労して自分で稼いだお金で買ってこそ、価値ある財産となるのだ。
戻って来たギターには多少の傷と使用感がついていたため、USED扱いになってしまった。
悲しい事だ。
でも幸いな事に、音や弾き心地は変わらずに素晴らしいままだった。
ギター捜索の呼びかけに協力したことで、私にもこのMark Lacey Premireに対する愛着が生まれた。
私は2010年で55歳になり、段々とフルアコースティックギターの響きに心地良さを覚える様になって来た。
いつも浴室で湯船に浸かりながら、よく有線放送のスムースジャズ・チャンネルを聴いているのだが、
丁度そんな頃から、フルアコースティックギターを使った曲がよく流れる様になった。
世の中の流れもフルアコになって来たのだろうか…
気に入った曲をチェックしては購入していた。
『ラフタイム』にギターが戻ってからは、私は店に遊びに行く度に弾いてみる様になった。
そしてもう、その音と弾き心地の素晴らしさに完全に病み付きになっていた。
手にジャストフィットするネックのアール。
弦高を低くしてもしっかりとした鳴りを保つ。
生音がとても素晴らしい鳴り方だ。
デアルモンド製のフローティング・ピックアップは、ナチュラルで甘く深い響きの中にしっかりとした腰がある。
強く弾けば「音抜けの気持ち良い(よく通る)」強い主張をし、優しく弾けばとろける様な癒しの音になる。
「そろそろフルアコが欲しいな」
「買うならやっぱりこのギターがいいな」
と思った。
USED扱いとはいえ、かなりなお値段。
色々と余裕が無いと…
そのためには私には時間が必要だった。
あまりに素晴らしいギターだから、きっと売れるのも時間の問題だろう。
「どうか私が買うまでここに残っていてくれ」
と願いながら、月日が過ぎた。
なんと一年近く経ってもギターは売れずに残っていてくれた。
私を待っていてくれたのだろうか…
そして2011年9月15日。
ついに私の物となった。
Fender Dual Showman Reverb に繋いで弾いてみる。
ちょっとシングルコイル・ピックアップの音が強調されて、フルアコっぽくない。
ベースアンプであるAmpeg B-15S EV のノーマル・チャンネルに繋いでみると、
なかなかの温かい豊かな音。
しかしちょっと帯域に偏りがあり癖っぽい。
一番相性が良かったのが、Walter Woods のアンプとEpifaniスピーカーの組み合わせ。
この組み合わせは全くのベース用だが、全域に渡ってバランスが良いし、
シングルコイルのピックアップの音に厚みが増して丁度良い。
ジム・ホール、バーニー・ケッセルといったジャズ・ギタリストもこの組み合わせを使っているらしい。
本当に素晴らしい。
すっかりフルアコ使いになった様な気分である。
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製作年の1997と、工房のあるNASHVILLEが彫られている。 |
シリアル・ナンバーは#0051
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私はダダリオの012のフラットワウンド弦を張っている。
普段他のエレキギターには009のラウンドを張っているが、
このギターは弦高がとても低く設定出来るので全く違和感を感じない。
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'50年代後半のデアルモンド製のフローティング・ピックアップはネックからアームでセッティング。
ボリュームとトーンのポットがピックガード上にある。
削り出しのボディー・トップが芸術的なアーチを描く。 |
ボディー・サイドも凄いフレーム
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ネックもヘッドのサイドも凄いフレーム
本当に心地良い。
いつまでも音に浸りながら、癒されながら弾き続けていられる。
スタンドに立て掛けて観ているだけでも癒される。
生まれて初めてのフルアコースティックギターは、
一生の宝物になった。
老後の楽しみにも最高の友である。
(写真撮影:光齋昇馬)

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