【 Gibon EB-3 '62 】

※写真はクリックで拡大します

ボディー ホンジュラス・マホガニー単板
ネック ホンジュラス・マホガニー・ワンピース
    ハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)指板
    30.5インチ・スケール
ペグ クルーソン逆巻き
ピックアップ フロント:ダブルコイル(ハムバッキング)
リア  :ハムバッキング
コントロール フロント・ボリューム、フロント・トーン
リア・ボリューム、リア・トーン
4ポジション・ロータリー・ピックアップ・セレクター
(1.フロント/2.リア/3.ミックス/4.フロント・ローカット)

 

 

2012年購入

私にとって4本目のEB-3。

1本目は'68年、中学校2年生の春に母に買ってもらったGRECOのコピーモデル。
生まれて初めてのベースギターであった。
形は本物に似てはいるが、音は酷かった。
それでも高校1年生まではメインベースだった。

 

高校1年生 文化祭のステージで

 

2本目は、'80年くらいに買った '72年製のGibson EB-3L。
ロングスケールでフロント・ピックアップの位置がブリッジ寄りにある。
EB-3らしからぬ音。

3本目は'05年、Gibsonが発売したSG Reissue Bass。
ご機嫌な弾き心地と、何にでも使える音色。
扱い易く優れたベースだが、スムース過ぎて味わいに欠ける。

3本とも使わなくなって手放してしまった。

 

ところが、生まれて初めてのベースギターがEB-3であったためか、
我が家に1本も無いと、寂しくなるのだ。
刷り込みなのだろうか…

あの姿。
あのポコポコブリブリした独特の音。
何故だか魅力を感じてしまう。
使わない筈なのに、見ると欲しくなるEB-3。
ヴィンテージ専門店にEB-3の出物があると、一応チェックしたりしていた。

EB-3と言えばジャック・ブルース、そしてアンディー・フレイザー。
彼等が使っていたのが'62年製。
Fender の Jazz Bass や Precision Bass も素晴らしい物が生まれた年である。
【'62年製】という言葉に特別な魅力を感じる。
しかしお値段も相当な額で、なかなか手が出ない。

 

2012年8月

'62年製の Fender Jazz Bass の素晴らしく綺麗な出物があった。
もし弾いてみて良かったら思い切って買おうと、
新大久保にあるヴィンテージ専門店【ハイパーギターズ】に試奏にいった。
とても綺麗に全てがオリジナルを保っていた。
ヴィンテージ物で【綺麗=使っていない=鳴らない】という常識通り
「どんなに頑張って弾いても、私が生きているうちには鳴り始めないだろう」
という頑固さを感じた。
購入を止めた。

せっかくお店に来たのだからと、他のベースを弾いてみる事にした。

そこに、気になっていた'62年製の EB-3 があったのである。

小さい。 軽い。 薄い。 可愛い。

何だか妙に魅力的な姿で、ちょこなんと立て掛けられていた。

早速弾いてみる。

とても弾きやすい。

思った通りのEB-3らしい音ではあるが、
意外にブリブリ感が少ない。
'70年代の物と違って、この頃の物は出力が大きくないのだ。
簡単には歪まない代わりに、様々な音色が出せる。
指先の細かいニュアンスが素直に出せる。
指のタッチがハッキリと音に出る。
右指の弾く位置でかなり音色が変わる。
歯切れ良く弾む様な音色は、ヤンチャな気持ちを掻き立ててくれる。
いつもは弾かない様なロックなフレーズで、思い切り暴れ回りたくなる。
30.5インチというスケールは、Alembic SSB の30.75インチより短い。
速いフレーズをコロコロとスムースに弾ける。
Cream や Free のフレーズだけでなく、
ジャコやスタンリー・クラークのフレーズを弾いても楽しい。
もちろん EB-3 であるから、扱いやすい音とは言い難い。
独特の癖がある。
しかしそれが何とも言えない味わいとなり、凄く魅力的な音。

「これは使い様によっては面白い事になるぞ」
何よりも弾いていて楽しい。

と思った瞬間に買う事にしていた。
'62年製 Jazz Bass を買いに行って、'62年製 EB-3 を買ってしまった。
円高の影響で、思った程高くはなかった。
Jazz Bass に比べたら三分の一のお値段。
それでも決して安くはないのだが、何だか得した様な気分になった。
値段の感覚は簡単に狂うものだ(笑)

4ポジション・ロータリー・ピックアップ・セレクターも問題無し。
各ノブのガリも除去されている。
ミュートもスムースに使える。

 

フロント・ピックアップは固定式で高さ調整が出来ない。
ボビンの上下ではあまり変化が無い。
例の『ブオーーーーン』という高音成分の無いどうしようもなくブッ太い音。
リア・ピックアップはお馴染みの『ポコポコブリブリ』の音。
リアは意外にシャキッとしたシャープな音も出る。
ミックスの音はどうしてもバランスが取れないので、使えない。
この時期のフロント・ピックアップ・カバーやリア・ピックアップ・エスカッションはプラスチック製で、クロームメッキが施されている。
それが擦れて剥がれて黒い地肌が見えている。
剥がれた姿もまた、味わいがある。
しかしなんで銀色に塗るのだろうか?
アメリカ人らしい感覚である。
リアのハムバッキング・ピックアップのカバーは金属製。
私は金属製のアームレストと、木製のフィンガーレストは取り外して使う。

 

ネックは適度な太さがあり、弾き易い。
マホガニー・ワンピースのネック(セットネック)は非常に折れやすく、この通り付根も薄くていかにも弱い。
折れずに無事に残っている個体は珍しいくらいだそうだ。
これは気をつけなくては。

ヘッドにはクラウン・インレイが入っている。
クルーソンのこのタイプのペグは弦を通す穴が小さい。
弦が細くなった部分を通さなければならない。
ちゃんとショートスケール用の弦を使わないと、写真の様に4弦だけ別の弦にしなければならなくなる。
ちなみにこの写真撮影時の1弦から3弦は、ロトサウンドのラウンドワウンド弦 SM 66 のロングスケール用である。
4弦は穴に入らなかった。
その後はロトサウンドのショートスケール・ラウンドワウンド弦、RS 66Sを使っている。
バランスが良くご機嫌である♪
ハカランダ(ブラジリアン・ローズウッド)の指板が、長い年月で良い色になっている。

 

クルーソンの逆巻きペグは、その名の通り通常とは逆に巻く。
Fender の様に片方だけにあれば扱い易いが、Gibson の様に両側に分かれていると、 慣れが必要。
私はEB-2D '67年製 や Rickenbacker 1999 を使う内に、違和感が無くなった。



(写真提供:ハイパーギターズ)

 

Gibson EB-3 1962年製。
小さくて軽いから何処にでも持っていきたくなる。
このベースを持っている時の私は、ヤンチャで悪戯好きな小悪魔ベーシストかもしれない(笑)
何か斬新な事をしたくて、ウズウズしている筈だ。
ひょっとしたら、私にとって重要な武器になるかもしれない。

せっかく手に入れた'62年製。
こいつはもう
手放さずに持っていよう。

(ここまで 写真撮影:佐藤勝也)

 

2017年
我が家の楽器類を少し整理しよう
ということになり
何本かのベースとギターを、人に贈ったり、預けたりすることになった。
その中に、この EB-3 も候補として上がった。

そんな矢先
この年の11月から12月にかけて出演する舞台
『夫婦漫才』(豊川悦司原作、池田テツヒロ脚本、ラサール石井演出)
において
「ベース漫談をやってほしい」と
ラサール石井さんからのリクエストがあった。

物語は戦前・戦中・戦後から現代になるまでの大阪を舞台にした、
71年間に渡る、夫婦の一生のお話。
第二幕の冒頭で娘を亡くし、悲嘆にくれた妻・信子(大地真央さん)が漫才をやめる。
生活の為仕方なく、夫で相方の伸郎(梅雀)がピン芸人としてベース漫談をやる。

時は1962年

ベース漫談など無い時代だが、そこはサービス。
当時としては、Fender のベースより安い Gibson のベースなら、伸郎が持ってもおかしくはない
それに、優等生的なベース音より、個性的な音の方が面白い。
「丁度いいから1962年製のこの EB-3 を使ってみよう」

早速日本を代表するリペアの名人・F氏に調整を頼んだ。
せっかくだからピックアップのフロントとリアをミックスしても使えるように
配線やコンデンサーをいじってもらった。

結果、ミックス・ポジションでも実にご機嫌な具合になった。

ということで

『夫婦漫才』

(写真撮影:瀬川寿子)

 

初めてのベース漫談を毎回生演奏で、このEB-3で演じたのであった。

THOMASTIK JF344(フラット・ワウンド弦)を張り、リア・ピックアップで演奏
VOXの白いカールコードを使って時代感を出した。

出入りの関係で、舞台上に電源を用意できないので
アンプは電池駆動のVOXのSoundbox Mini の出力を12inch 一発のベース用キャビ(音響の石神さん所有の日本製のヴィンテージ物)に繋ぎ
外見を昔のアンプ風にデザインしてカバー
驚く程まともな音量が稼げた。

出音としてはJaco的なニュアンスにした
もちろんフレーズもJaco的。

これが思いの外上手くいき
結構癖っぽいはずのEB-3と相性がピッタリだった。

回を重ねるごとに、不思議なほどにコントロールしやすくなり、音も魅力的な艶が生まれていく
ベースが、長い眠りから目覚めた様な感じだった。

お客様にも、キャストやスタッフにも大好評だ
このベースがこれ程に活躍するとは記号

本当に手離さないで良かった。
間違いなく、私の大切な武器になった。

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